【エッセイ】松葉を煎じるようになってから~心の在り様の変化を見つめる~
(鎌倉市腰越より江の島を撮影)
以前、首都圏に住んでいた頃、東京の喧騒からは離れた場所だった。周囲にはサーファーの人が多く住んでいた地域だった。それでも都会のリズムに染まっている人が多く住んでいる土地。だからなのか、ゆったりした中でも忙しさが周りからは伝わってきていた。
そんな中で暮らしていると、「10分お茶を煮出すのを待つ」という行為がリズムに合っていないというか、「そんなのんびりしたことしていられないよ」という感覚に陥っていた。だから、お茶を煎じて飲むのは、周りものんびりしている休日はやりやすい感じがあった。
そんな環境だったけど、その土地に暮らしている間に自分で初挑戦したことがあった。それは味噌作りと梅干し作りだった。どちらも自分の口に入るものを手間を掛けること、寝かせる時間が必要なこと、という共通点のある作業だった。
都内に住んでいるときは、全く興味ないというか、眼中に入らないことだった。でも、自分の食べるものに興味を持ったこと、周りの縁ある人がそのような手仕事に興味関心を持つ人がいたこと。何より梅の木が住んでいる家の前にあったことも挑戦したくなる環境だった。
(去年作った塩分10%梅干し 赤しその漬ける時期が遅くてしっとりしなかったが、これもまたいい感じ)
そもそも、しっかり塩分の効いていて、無添加の梅干しを購入しようとすると、なかなか見つからないし、けっこういいお値段だったりする。それならば、自分で作ったほうが安上がりだろうという算段もあった。味噌も同じ。毎日味噌汁を飲むのに、おいしい味噌で作りたい。大量生産ではない、おいしい味噌が探してあちこちで買い求めていた。しかし、味噌も自分で作れることを知り(手間はかかるが、やってみると案外愉しい)、年2~3回作るようになった。
手間を掛けて自分の食べるものを作る。それが未来の自分への贈り物だと知ったのは、梅干し作り3回目の今年の夏だった。お金をかけずとも美味しいものが食べられる。そのためには、朝晩干した梅をひっくり返す作業が必要だけれど。その手間が美味しい梅干しになっていくんだ、と思うと愛着が湧いてくる。今では、毎朝梅醤番茶(梅干しにおろし生姜と醤油、そこに無農薬の三年番茶を注いだお茶)を飲むのが日課となっている。
(毎朝飲む梅醤番茶は健康の源)
そうそう、なんで梅干しや味噌の話をしていたのか、脱線したままになっていた。
繰り返して書くが、《手間を惜しまないこと》。これが自分には新しい発見だった。特に、山形県庄内地方に移り住んでからは、手間をかけることが苦にならなくなってきた。今の住まいは、酒田でも郊外というか中心部から離れていて、空き地や畑が点在している。あちこち野原だらけ。そこには雑草と呼ばれるような草や、風で飛んできて自生した松が自由に伸び伸びと育っている。
(遊佐の湧水を汲みに行ったときに撮影した鳥海山)
遠くには出羽富士と呼ばれる鳥海山が見える。ひと言でいえば、以前の住まいより自然が身近で人の密度が低い。もちろん、朝から出勤する人もいる。以前の住まいより早朝から車で出勤する人が多い。でも、植物が多いせいか、慌ただしさが圧倒的に少ないのだ。
やっと最初の松葉を煎じる話に戻る。
この緩やかな雰囲気の環境だとじっくり松葉を煎じることがまったく嫌な作業ではない。むしろ、ゆっくりと火をかけていることは時間の流れに沿った作業な氣がしてくる。
自分と夫のために。身体が歓ぶものを作る。
それがなにより贅沢だと最近思うようになった。わざわざお金を使わなくても、松の葉はそこらで採ってこれるし、水は鳥海山の湧き水を汲んでくることができる(ガソリン代はかかる)。昔からこの地に住んでいる人たちは、松の葉に全く興味ないみたいだけど。
(一つづつオイルを瓶に詰める)
わたしは、そんな贅沢な環境に住まわせてもらっているお陰で、松葉をお茶にしたりまつばオイルを作ったりしている。日々自然の恵みに接することができるようになってから、心も緩やかに変化してきた感じがする。慌てたり焦ったりすることは多々あるけど。それでも、リセットしやすくなったんだろうな。
「時短・便利」の逆を行く。なんでも手間ばかりかけていたら、時間は無くなるけど(笑)。それでも、手間かける時間があると心の余裕も生まれてくる、そんな氣がする。
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